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「わが母の記」見たよ


昭和39年。小説家の伊上洪作(役所広司)は長男であったが、幼少期に母・八重(樹木希林)に育てられていなかったことから、八重とは距離をとって生活していた。しかし、父が亡くなって状況が変わり、八重の“暮らし”が家族の問題となる。洪作は妻と3人の娘、妹たち“家族”の支えにより、自身の幼い頃の記憶と、八重の想いに向き合っていく…。八重は薄れゆく記憶の中、“息子への愛”を必死に確かめる。また、洪作もそんな母を理解しようとするが――。

わが母の記 映画作品情報 - シネマカフェ

MOVIX宇都宮で観てきました。

普段はこの手の時代を描いた邦画はあまり好んでみないのですが、原作が井上靖さんということのがすごく気になったので観てきました。


以前、私がいまのように本を読むようになったきっかけについて書いたことがあります。
このことは、「心に残った本」(今週のお題)というエントリーで書いたのですが、リンク先を読む気にならない方のために30文字以内で要約すると、"高校生のときに「海と毒薬」を読んだら面白くて本にはまった"ということなんですが、実はこれ以前に一度本を読むことにはまっていた時期がありました。

高校2年からさらにさかのぼること6年ほど前。
理由ははっきりとおぼえていませんが、当時小学2年生だか3年生だった私は井上靖さんの「あすなろ物語」を読みました。それまでも児童向けの本はたくさん読んでいましたが、「文学的な本」という意味ではこの本が初めて読んだ本だったと記憶しています。もう内容はさっぱりおぼえていませんが、それがあまりにおもしろくてそれ以来、学校の図書館の本や母が若いころに買ったという本を引っ張り出しては読み漁るようになりました。

ただ、近くにある本から適当に選んで読んでもおもしろい本にはなかなか出会えず、そのうち読書よりもゲームや野球をしているほうが楽しくなってしまって自然と本は読まなくなってしまいました。そしてここからの数年間は本とはあまり縁のない生活*1を送るようになるわけですが、この「あすなろ物語」との出会いが私の読書人生の原体験とも言えるのです。

井上靖さんというのは私にとってとても大きな存在なのです。


だいぶ話がずれてしまったのでトピックを映画に戻しますが、本作はいまから50年ほど前、つまり戦後10年を経過して徐々に豊かになりつつある時代を舞台にした作品でした。

もちろん私はまだ生まれていないので当時のことをまったく知らないのですが、当時はこうであると感じさせ、そして信じさせるくらいに時代の空気をうまく表現していて、観ているうちにまるでこの時代に自分も溶け込んでしまったようなそんな気持ちになってしまいました。


そして、やはり一番すばらしかったのは親が子を思う気持ちと子が親を思う気持ちの非対称さを描いていた点です。

伊上洪作(役所広司)が、幼いころに母の八重(樹木希林)に捨てられて祖父の愛人に育てられたことを心の傷にしていて、それを長く気にして生きており、何十年も前の過去のことを過去と割り切れずに母に対する不満を抱えて生きています。

自分はこんなにも母親を必要としていたのに、その母には必要とされずに捨てられてしまったことに傷つき、その傷はずっと癒えずにいたわけです。ところが、実際には母親に愛情がなかったわけではなくて、ちゃんとした母なりに考えがあってそこには母の子に対するつよい愛情があったわけです。

記憶は薄れ、自我もどれほど残っているのかわからない母のなかに、自分に対する温かな想いの欠片を見つけた伊上が喜びの感情を爆発させるシーンは観ていて心が揺さぶられました。

親と子の関係というのは決して同じ目線にはならないし、両者が互いを思う気持ちのつよさというのは対称にならないとわたしは思っています。この作品を観ながら、その両者の気持ちが決して釣り合うことのないものであったとしても、親は親なりに子を想っているし、子は子なりに親を必要としているということがすごく大事だと感じたし、親は親として子にそのことを伝え、子は子で親にそれを伝える努力をしなければいけないんだなと感じました。


とりとめがなくなってきたのでこのくらいにしておきますが、本当にすばらしい作品でした。
今年観た邦画の中では「しあわせのパン」とこれがツートップで好きです。


そういえば、この作品を観に行ったときに周りの観客がほぼお年寄ばかりだったのですが、周囲の笑いどころとわたしの笑うポイントが違いすぎてものすごいアウェイ感満載の中で見てきました。半分ボケてしまったおばあちゃんがおかしな行動をとったり発言をするたびに、わたしはその状況が自らの身に降りかかったときのことを想像して戦慄したのですが、周囲の人たちはこれを暖かく見守りながら「まあおばあちゃんったらしょうがないわね」的なほのぼのとした笑いが起きていて、その年の功の偉大さには感服せずにはいられませんでした。



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*1:実際には赤川次郎さんの小説とかを細々と読んだりしてましたが、読書が趣味といえるほどではありませんでした