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「ふがいない僕は空を見た」見たよ


助産院を営む母子家庭で育った高校生・卓巳(永山絢斗)は アニメオタクの主婦・あんず(田畑智子)と出会う。家庭に居場所のないあんずは、そのやり場のない思いや現実から目を背けようと卓巳と体を重ねていく。そんな一方で、卓巳は自分が本当の恋をしていることに気づくが、2人の思いとは裏腹に、思わぬ方向に転がっていき…。

ふがいない僕は空を見た 映画作品情報 - シネマカフェ


(注意)
本エントリーには作品の内容に触れている部分もあるのでご注意ください。



宇都宮ヒカリ座で観てきました。

先日原作を読んだばかりでしたが「原作に忠実な映像化作品」というのが観ての率直な感想でした。
原作で描かれていたメインなイベントはおおむね描かれていましたし、作品全体を覆う空気はひじょうにうまく再現されていたように感じました。群像劇的な視点でも描かれていたしキャストも原作のイメージどおりでしたので、原作をとても大事にしているなということは伝わってきました。


ただし、忠実というのはあくまでストーリーの再現性や雰囲気が出ているという意味でして、原作の主題について正確に描いていたかというとそうではなかったように感じました。原作は、性欲や性癖といった根源的な欲求に振り回される人たちや、妊娠・出産といったライフイベントに付随したできごとに囚われる人たちの姿が描かれていて、その結果として道を踏み外してしまう、大きな失敗をしてしまう様子がとてもよく伝わってくる作品でした。


義母からの過度な要求やそれに伴うストレスから逃れるために、コスプレや高校生とのコスプレセックスにハマってしまった主婦や、幼い子どもを連れ込んでイタズラせずにはいられなかったお金持ちの男性は、性欲や性癖といった忌避できないものによって道を踏み外すことになった人たちの象徴として原作では描かれていたのです。


こういった根源的な欲求に関わるものを、作者は本文中で「やっかいなもの」という言い方で繰り返し表現していて、そこがとてもおもしろいなと感じたし、性欲を「やっかいなもの」と断ずる考え方にはひじょうに共感をおぼえました。そしてあらためて自分の人生を振り返ってみると、つくづく自分はそういった性やライフイベントにおいて大きな失敗のない道を歩んできたことをあらためて認識しました。


もちろん、自分自身に性欲や性癖にまつわるトラブルがないからそれらにいっさい興味がなかったというわけではなく、むしろあり過ぎたがゆえに徹底して自重してきた結果がこれだというのが正直なところです。自分の欲求ややる気に任せてしまっていたら、きっと自分自身はこういったやっかいなものに振り回されてしまっていただろうし、そうならないように理性による自制をはらかせて毎日を積み重ねてきたことがいままで自分を守ってくれたんだろうなと思ったりもします。


そういった毎日のガマンを積みあげて平坦な日常を獲得していたというのが正直なところでして、だからこそ、そういった部分でガマンしなかった登場人物たちのことが少しうらやましく感じました。当然、この作品で描かれているような失敗や過ちを自分も犯したいかというとそうではないのですが、作中である人物が口にする「バカな恋愛をしたことのない奴なんているんですかね?」というセリフがあってドキッとしたんですよね。わたしには「あのときはバカなことしちゃったな....」という思い出が本当に無くて、それがわたしという人間のつまらなさを象徴しているような気がしています。


「倫理的、道徳的、社会的にやってはいけないことはやらない」というのはとても大事なことですが、そういった抑制が効かないくらいに衝動的になにかをするという経験がないことが実はわたしにとっては大きなコンプレックスなんだなと実感しました。さすがにこの歳になると、そういう衝動的になにかをするなんてのは無理だしやるべきじゃないというのはわかってますけど。



話が映画の感想からやや少しずれましたが、映画では個々のイベントは描かれていたものの原作のエッセンスはすっぽりと抜け落ちていたように感じていて、たとえば田岡さんの人となりがほとんど描写されないまま性犯罪者として逮捕されてしまったためにただの犯罪者にしか見えなかったのは残念でした。卓巳が内面に抱える葛藤やもちょっとおざなりだったし、七菜に至ってはほぼ放置プレイでしたので卓巳。

逆にあんずが追いつめられていく部分の心理描写やそこから逃げるために内側に閉じこもっていくところや、卓巳の友人である福田の日常は原作よりも丁寧に描かれていたためにこの二人の発言や行動については原作よりもすごくしっくり理解できたように感じました。


群像劇の映像化というのはなかなかむずかしいなと思いつつ、そういったむずかしさがある中においてはとてもおもしろくまとまっていたと思いました。未見の方や原作未読で観て楽しめなかった方は、原作を読んでから観ることをおすすめします。


ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

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