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「百瀬、こっち向いて。」見たよ


15年前。相原ノボル(竹内太郎)は高校に入学してからずっと、冴えない日々を送っていた。 ある日、尊敬する先輩の宮崎瞬(工藤阿須加)に呼び出され、ショートヘアで野良猫のように鋭い目つきの美少女を紹介される。彼女はノボルの隣のクラスの百瀬陽(早見あかり)。瞬は学校のマドンナ的存在の神林徹子(石橋杏奈)という恋人がいるが、百瀬と付き合っているといううわさが一部で流れ困っていた。そこで、ノボルに百瀬と期間限定で付き合うふりをすることを提案する。こうして、ノボルと百瀬の「嘘」の恋愛関係は始まる――。

百瀬、こっちを向いて。 映画作品情報 - シネマカフェ


この映画の原作は大好きな乙一さんが中田永一という別名義で書いた小説だそうですが、じつはこの映画を観終えてから調べるまではまったく知りませんでした。

「好きな作家の動向を知らないなんてほんとうに乙一さんのファンなのか?」と自分自身を問い質したくなるしたいへんおはずかしい話なのですが、じつはこの作品を観ながらわたしは乙一さんの「しあわせは子猫のかたち」というすごく好きな作品のことを思い出していました*1


「しあわせは子猫のかたち」は「失踪HOLIDAY」や「失はれる物語」に掲載されている短編です。


失はれる物語 角川文庫

失はれる物語 角川文庫


内容は「人と付き合うのが苦手な青年が、前の住人が強盗に殺されたという家に引っ越したら前の住人の幽霊と猫が住んでいて共同生活を送る」というとても変わった物語です。幽霊との同居というとホラーテイストな物語になりそうなのですが、幽霊はとても礼儀正しいうえにフレンドリーな一面ももちあわせていたために、青年はとても満たされた日常を手に入れることができるのです。

そもそも、この青年は「自分自身は他者とうまく交わることができない」と感じていて、そのことを理由に自分自身のことを徹底的に卑下しています。さらにこんなダメな自分は「人並みのしあわせを手に入れること」、具体的にいえば「他者と寄り添って人生を歩んでいくこと」をあきらめてひとりで生きていくかくごを決めていました。

ところが、青年は幽霊や猫とのしあわせな共同生活をとおして誰かといっしょに過ごすしあわせの味を知ってしまい、あきらめたはずの人並みのしあわせをのぞむようになります。手に入らないことに苦しむよりは、いっそ最初からあきらめてしまえと思っていたのに、いつのまにか自分がそういったしあわせな生活を手に入れていたために、いまさらそのしあわせを諦めて生きることはできなくなってしまったのです。


本作は「仲のよい先輩の浮気をカモフラージュするためにその浮気相手と付き合っているようにふるまう」という話なのですが、この作品の主人公ノボルも「しあわせは子猫のかたち」の主人公と同じで能力や外見に秀でたところはなく、さらに非コミュで他人とうまく関われないタイプの人間です。そしてそのことを十分すぎるくらい自覚していて、いろんなところで人並みになにかを得ることをあきらめているのです。

そんなノボルが命の恩人である宮崎先輩にたのまれて百瀬と付き合っているふりをしてするわけですが、たとえカモフラージュのための行為だったとしても、日常の多くの場面で女の子といっしょの時間を過ごすことということを経験してしまったことであっという間に百瀬のことを好きになってしまうのです。

女の子と付き合うなんて夢にも思っておらず、「自分は人間レベルが2なんだ」と言い聞かせてそういったしあわせを最初からあきらめていた彼が、押し付けられるような形で始まった関係を続けることであきらめていたものをいつの間にか手にしてしまい、しぜんとそのしあわせを求めるようになってしまう。この構図は「しあわせは子猫のかたち」ととても似ているし、観ながらそのことをずっと考えていました。


自らの立ち位置を直視して、「できること」と「できないこと」をきっちりと区別してできないことは最初からあきらめるというのはストレスなく生きるためのひとつのノウハウだと思います。できないことは最初からさっさと捨ててしまえばそのことに執着することはないし、手に入らないとストレスを感じることもなくなります。

でもそのあきらめるラインを極端に低くしてしまうと、苦しみもないけれど喜びもないという抑揚のない毎日になってしまいます。

もちろん嬉しいことなんてなくていいからストレスを感じたり悩んだり苦しんだりしたくないという生き方もありだと思いますし、わたしも10代の頃はそんなふうに考えていた時期もありました。太っていてそのせいで大人や子ども問わずからかわれることの多かった中学時代はとりわけそんなふうに思っていました。

でもね。そんな内向きな毎日は退屈なんです。
すぐに飽きちゃう。


自己評価を低く低く見積もって退屈なだけの毎日で満足するなんてもったいないとわたしは思うし、だからこの作品のように「へたに身の丈をわきまえてあきめなくてもいいものを最初からあきめていた人に渇望をよみがえらせてくれる」物語がすごく好きなんです。


そんなわけで読んでのとおりうまくまとまらないのですが、とてもよい作品だったと思います。
神林先輩の意外な素顔やもどかしさ全開のラストもふくめ、とにかく全部がおもしろかったです。


ちなみに映画を観終えたあとに原作を読みましたが、現代の時代設定がちょっと変わっていたのとラストが違っていたのが印象的でした。
個人的にはラスト含め、原作の方が夢があって好きだなと思いました。映画の方がちょっとビターな感じがして大人っぽいし現実味のある話として感じられたのですが、どっちが好きかといえば原作の方がだんぜんよかったです。



@MOVIX宇都宮で鑑賞


公式サイトはこちら

*1:だからなんだっていう話ではなく、そのくらい乙一さんらしいお話だったよというアピールです