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「6才のボクが、大人になるまで。」見たよ


メイソン(エラー・コルトレーン)は、母オリヴィア(パトリシア・アークエット)と姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)とテキサス州の小さな町で生活していた。彼が6歳のとき、母は子供たちの反対を押し切って祖母が住むヒューストンへの引っ越しを決める。さらに彼らの転居先に、離婚してアラスカに行っていた父(イーサン・ホーク)が1年半ぶりに突然現れ……。

映画『6才のボクが、大人になるまで。』 - シネマトゥデイ


初対面やそれに近い人と話していると決まって趣味の話になるのですが、映画が好きだというとたいてい「一番好きな映画はなんですか?」とよく聞かれます。


一番...。


さすがに9年近くも映画を見続けていると見た作品の本数自体がそこそこの数になりますし好きな作品もたくさんあります。そして一口に好きといってもタイプも度合いも違う作品があるわけでして、そこから一番を選ぶのは非常にむずかしいと言わざるを得ません。

最初のころはこんな質問を受けるたびに自分の好きな作品リストの中から相手の知ってそうな作品を選んで答えていたのですが、いつからか「ビフォアシリーズ」だと答えることが増えてきました。



「ビフォアシリーズ」というのは「ビフォア・サンライズ」「ビフォア・サンセット」「ビフォア・ミッドナイト」の3作品のことです。


この3作品は続編となっていて、「ビフォア・サンライズ」で出会って一夜をともにした男女が9年後に再開するのが「ビフォア・サンセット」で、その9年後の結婚生活を描いたのが「ビフォア・ミッドナイト」なのです。


3作品にはそれぞれに異なる魅力がありましてひとつひとつ話していると一晩あっても足りないくらいたくさんあるのですが、わたしがあえてこのシリーズを一番好きだと挙げる理由は、個々の作品の魅力よりも3作品をひとつの連続した物語として観たときに初めてわかる事実を評価して挙げているのです。


この3作品は初作から3作目まで9年ごとに撮影・公開されていて合計で18年もかかっています。その間メインキャストの二人は変わっておらず、作中の登場人物にはリアルな時間の経過が反映されています。初作では20歳そこそこだった二人は2作目の「ビフォア・サンセット」でちょっとめんどくさい30代の男女になっていて、3作目の「ビフォア・ミッドナイト」では倦怠期が顔をのぞかせる程度に結婚生活の長い40代間近な男女として描かれていて、さらに実際に演じる二人もまたその設定どおりに相応に年齢を重ねているのです。


単一の作品ならまだしも、何度か続編が撮られる作品において作中の時間経過と演じる人の実年齢の変化を一致させるというのは非常に難しいことであり、CGや特殊メイクを駆使すればどんな映像でも撮ることができる現代においてもこれを実現するための完全な手段は本当に時間を経過させる以外にはないと思っています。

たとえばある人の子ども時代を描くときに、その人に似た子役を出すことはできても本当の子ども時代の本人を連れ出すことはできません。

もちろん子ども時代の本人を出すことにどこまで意味があるのかわかりませんし、見た目の似ている演技のうまい子役を配置した方が映画としての出来がよくなる可能性は十分ありえます。でも「ビフォアシリーズ」の一ファンとしては、ひとつの作品の中で発生する長い時間経過を現実のそれと完全に一致させることができたらどんなふうになるんだろう?という興味はありました。とうぜんそれはすごく難しいことで実現できないだろうという予感もありましたが...。


本作はある少年が6才から18才になるまでを実際の時間経過に合わせて撮った作品ですが、この作品のことを知ったときにまっさきに思い出したのは「ビフォアシリーズ」のことであり、おそらく監督はリチャード・リンクレイター監督だろうということでした。映画の中の時間経過と作品の中の時間経過をきれいにすり合わせようなんてことを考えるのはきっとあの人しかいないと思ってすぐに調べてみたのですがまさにそのとおりでした。

「ビフォアシリーズ」で3作品かけてやったことをたった1作品で表現しようという無茶な試みがどこまで成功したのかということを楽しみにしながら本作を見てきました。


6才から18才になるまでというと12年間。

12年間と言えば、わたしは昨年の4月でいまの会社に新卒で入社してから12年が経ちました。改めて振りかえってみると12年というのは本当に長い期間だと思うし、正直に言って12年前の自分が何を考えていたのかなんてさっぱりおぼえていません。


本作はそんな12年という長い時間を実際にかけて登場人物の変化をカメラに収めたわけですが、その発想自体がまずすばらしいし最大の賛辞を送りたいのですが、その企画をとおして予算を取ったことやそれを実行に移したこと、そして何よりも誰ひとり欠けることなく作品の完成までたどりつけたこともまたすばらしいと思います。


さて。肝心の作品についてですが、これがもう期待以上というしかない代物でしてもう最高によかったです。

本作では始まりと割では12年の時間が経過しているのですが、その中でもっとも大きな変化の象徴として描かれているのがサマンサとメイソンの姉弟です。

弟に嫌がらせをするくせにいざ親が出てくると被害者面して見せる小憎たらしさ満点のサマンサ(お姉ちゃん)ですが、本当に子どもっぽかったのは最初の数分くらいのものでしてすぐに小学生らしい小生意気な感じにシフトし、そしてすぐに女性らしく変わって行きます。
そしてこれまた小さくてひ弱だったメイソン(弟)ですが、こちらの変化はもっと強烈で中学に入るくらいまではまだまだ小さい男の子っぽい感じなのですが、15歳になったあたりからどんどん男らしさを獲得していってその変化の大きさには圧倒されます。


本作ではこのような子どもたちの成長は時間経過に沿ったグラデーションとして描かれるのではなく、あるときシーンが変わったその瞬間に何の前触れもなく長い時間が経過してサマンサとメイソンは一気に変化します。ある瞬間から突然大きく成長を果たした姿を見せつけられると「ええー」と驚いてしまうし、そんなシーンを観るたびにまるで久しぶりにあった親戚のおじさんのように「大きくなったなー、何歳になった?」と二人に聞きたい衝動に駆られてしまいました。

自分が子どもだったころは会うたびに「大きくなったな」と言うおっさんがうっとうしかったし、都度年齢を聞かれると「ちゃんとおぼえとけよ」と思ったりもしたのですがいざ自分が当のおっさんになってみたら当時の大人の気持ちはすごく分かるようになりました。自分自身の見た目が大きく変化しない分、相手の変化の大きさにただただ戸惑ってしまうのです。

途中までは一観客として眺めていたはずなのに気付けばサマンサとメイソンの親戚になった気分で鑑賞しました。


12年というリアルな時間をかけなければできない作品である以上はすぐに真似をすることなんて誰もできないわけですから、内容の出来・不出来を評価する以前にまずはこの事実だけでも評価するに値するとわたしは思います。わたしのオールタイムベスト級の作品リストにまた新しい作品が追加されましたし、おかげで好きな作品を聞かれたら困るネタが増えてしまいました。


@TOHOシネマズ宇都宮で鑑賞



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