読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画館へ行こう

映画館で映画を観るのが大好きです

「くちびるに歌を」見たよ

映画


ある日、長崎県五島列島の中学校に、天才ピアニストだったと噂される臨時教師・柏木ユキ先生(新垣結衣)が東京からやってきた。合唱部顧問に就任した柏木は、合唱コンクール出場を目指す部員に「15年後の自分」へ手紙を書く課題を出すが、その手紙には、15歳の彼らが誰にも言えずにいる悩みと秘密が綴られており…。

くちびるに歌を 映画作品情報 - シネマカフェ


乙一さんが別名義で書いた本があるという噂を聞きつけて原作を読んだのが1年ちょっと前。

読むだけで作中の登場人物たちと同年代だったときを思い出させる描写のうまさはさすがだなと思いつつ、今まで乙一名義で書いていた作品とはちょっと色が違うなという印象を受けました。若さゆえの残酷さだとか取り返しのつかなさみたいな読んでいてざらざらとした気持ちになる部分があるのは相変わらずでしたが、ところどころでポッと希望が見えるというか、その瞬間ざらざらした気持ちを忘れてしまうような点にいつもとの違いを感じました。

そんなわけで原作がかなりわたし好みでしたので映画化も楽しみに待っていました。


本作は登場人物の設定や物語の大枠を原作と共有していたために、映像化としては及第点といってよい出来でした。
島の美しい風景や生徒たちの合唱風景はとりわけすばらしくて、文字だけで描かれていた世界が見事に映像で再構築されていることに感動をおぼえました。


ただ、登場人物の人となりや設定にちょっと手が入っていたりエピソードがごっそり削られた部分もあったために原作に思い入れのあるわたしからみたら「結構変えてきたな」という印象を受けました。エピソードを削った点については上映時間を考えればやむを得ないなと思ったのですが、設定変更については大胆すぎてややびっくりしました。

もっとも大きな変更点はやる気のないニートだったはずの柏木先生に重い過去を背負わせていた点だと思いますが、その変更の影響もあって物語の中心が「生徒たち」から「生徒たち+柏木先生」にシフトしていたところにおどろきました。わたしは原作の柏木先生のやる気のなさというか自然体な部分が好きだったし、物語の中の世界での存在感とは対照的に控えめで主張の少ない彼女のキャラクターだからこそ生徒たちのエピソードを描くうえでスパイス以上の存在にはなっていなくてすごくちょうどよかったと思っていました。

だから彼女が物語の中心の一つを担うようなキャラクターとして存在感をもってしまうことで、原作とはちょっと色合いの違う印象を受けたことも事実ですし、原作原理主義の立場を取るとするならばこれは由々しき問題ではあるのですが、実際に観てみればわかるとおりこれすごくおもしろいんですよ。

原作にはない柏木先生の態度の変化は原作とは別の味わいを持ちこんでくれましたし、上でも書いたとおり物語の大枠はちゃんと踏襲してくれているので登場人物のキャラクターをちょっと変えただけのアナザーストーリーを観ているようでこれはこれですごくよかったんじゃないかなと。



そういえば、この作品の監督は三木孝浩監督でしてわたしが大好きな作品を多く撮っている監督さんです。

監督作品の「ソラニン」「僕等がいた」「陽だまりの彼女」「アオハライド」は、いずれもわたしにとってはマスターピース足り得るすばらしい青春映画の大傑作ばかりでして、こんなすばらしい作品を撮ってくれる三木監督のことをわたしは心から敬愛しています。

そんなファン寄りの視点から観ても、本作は美しい風景、映像、物語はまさに三木監督らしい作品だったなと思いますし、またしても監督への信頼を厚くしたわけですが、一方で観終えたときから違和感というほど大げさなものではないのですが作品に対して物足りなさをおぼえていることに気付きました。


物足りなさの原因についてあれこれ考えてみたのですが、おそらく描かれる世界がキレイ過ぎるからだと分析しています。


上でも書いたとおり三木監督が映画をとおして描く世界はどれもとても残酷ででも美しいものとして描かれます。
ときに冷たく拒絶することはあっても、でもその冷たさもまた美しい世界の一部として描かれることが多いと思っていますし、本作もまたそんなふうに描かれていたと記憶しています。

でも実際の世界はそういう美しいことばかりではなくて、もっとドロドロして汚い部分もたくさんあります。

もちろん、そういう世界だからこそせめて映画の中だけでも美しい世界を観たいと願うわけですが、本作に限って言えばもうちょっとリアルな世界に近いドロドロした部分が入る余地が欲しかったなと。たとえば長谷川さんとのエピソードがあったらすごくよかったんじゃないかと思いますし、そういうアクセントがなかったことがこの作品に対する物足りなさかなと感じました。


とは言え、原作未読でも既読でも楽しめる良い作品であったことは間違いなく、ひさしぶりによい邦画を観たぞと大変満足しました。


@MOVIX宇都宮で鑑賞


くちびるに歌を (小学館文庫)

くちびるに歌を (小学館文庫)



公式サイトはこちら